ナバホの里を訪ねて
アート・デ・バニー

チンルは、グランドキャニオンよりも小さなシェリーキャニオンの入り口にある北アリゾナの小さな町。シェリー・キャニオンの純粋な酸化鉄の濃い赤.。狭い内側に湾曲した岩肌と垂直な岩の塔は、グランドキャニオンの色彩豊かな傾斜のある広い谷とはまるで対照的な景色だ。グランドキャニオンよりも美しいという人もいる。

　この町は、ナバホ族の住む土地だがそんな気配はない。どこにでもある通りがかりの田舎町のように、プエブロや日干し煉瓦の家（アドービ）はなく、アメリカの寒村にはどこにでもあるようなみすぼらしい家やガソリンスタンドがある。アメリカの田舎に病気のように蔓延している壊れた車、タイヤ、農業機械、捨てられた冷蔵庫、家財道具の破片が散らかる家やガレージ。　

　ここがインディアンの土地であるという最初の印は、ナバホの地にあるインディアンの美しい伝統的プエブロや日干し煉瓦の住居に取って代った政府が支給した住宅プロジェクトの荒廃した姿だ。（アドービ用の政府仕様が書けますか。駄目でしょうね。だから、このみすぼらしい小さな箱を60ｃｍ間隔で建ててチェーンを前に張るしかないでしょう。）

　次の目印は、酒を売る店がないこと。この炭水化物が駄目でインシュリン耐性の人たちは、自分達の住む国では酒を売る店を厳格に排除した。幹線道路沿いの一番近い酒屋を示す看板は、ひん曲がって酷い事故の痕跡を見せている。ほとんどが正面衝突で町のガソリンスタンドや修理屋の裏に残骸が転がっている。町から少し離れたところで、ロサンジェルス西のサンタモニカやウェストウッドにあるトニーの店にもないような工業用の強い酒を売っている店を見かけた。夜遅くに入れないように車寄せのガラス製自動ドアの前に巨大な鉄の扉（建物も鉄製）が引き出せるようになっており、ビールを乗せたパレットが天井まで積み上げられ、ウィスキーは様々な大きさの瓶（見たこともない大きなのも）があり、ゲータレード用の冷蔵庫や雑誌を置く床のスペースは全くない。

インディアンの町にいるということのおぞましい証拠は、透析センターだった。チンルは小さな町に唯一の透析センターだと思ったが、サンタフェへ行く道すがらこれと同じものが他の小さな居住区にも繰り返し現れた。私の妻は、（思春期からの）糖尿で透析センターが意味することは知りすぎるほどよく知っていた。成人以降のインシュリン非依存性糖尿病がアメリカインディアンの全部族、ナバホ族だけでなくジア族、プエブロ族、ピマ族、他ニューメキシコとアリゾナの全部族に伝染病のように蔓延していた。私達は居住区を通る度に透析センターと政府の支給した家をうんざりしながらもつい目をやっていた。それが、美しいプエブロの景色やロスアラモスの南の丘にあるジェメズの"アーチェリー場”（インディアンの好きな娯楽場、それとも叛乱のための訓練場か）の標識が突然出て来て気が楽になった。

　チンルの透析センターは、不用品交換所のある道路の丁度反対側にある。交換所をブラブラしたが、場違いの感じがしてすぐに出た。売り物が並べられた毛布の上やテーブル、トラックの荷台に広げられたあからさまな貧しさを見ていることに戸惑いを感じた。しかし、もっと深刻でとんでもなく皮肉なものがある：交換所全体をぐるりと見回すと一定間隔に大きなテーブルに色彩豊かな甘いシロップの大きな瓶が乗っている。子供たちが食べているアイスコーン用の味付けである。全ブースのほぼ１/４が冷たい甘いシロップを売っていて、子供達を道路の反対側の透析センターへと繋げているのだ。大人は、砂糖だらけのコークを飲み、ダイエット飲料は全く見かけない（外来の蛋白質と砂糖もどきのこれも良いとは言えない）。食べ物店で他に売っているものは、精白粉（アーチャ―・ダニエルのような炭水化物生産会社が直接助成金を受ける政府の支給品）で作ったトルティーヤのようなナバホ揚げパンや部分的に水素化された大豆油で作ったショートニング。　　

　不用品交換所（決して最善とはいえない食べ物）とコンビニで売っている少なくとも９０%のカロリーが単炭水化物で、ナバホ族の食事は成人糖尿病に直結している。誰だってこんなものを食べていたらそうなってしまう。

カリフォルニア大学アービン校の数理行動学研究所のアート・デ・バニー教授は、進化適応という本を書いており、これはその抜粋です。

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page last modified:  01/18/2001